草薙。構想としては3~4年くらい前から必要性は感じて、チャレンジしていましたが、ミルクティーに合う紅茶は生産量が非常に限られていますし、どうしても高価格の紅茶になってしまうので、実現させるのは中々難しい状態でした。
加えて、日本で作られた紅茶でセイロンティーのような味わいを作るのは中々難しい。元々の品種も気候も違うので当たり前と言えば当たり前なのですが、やはり「普通の紅茶」に近いものが欲しい。セイロンティーの香りはどうやって出来ているのだろう?色々ブレンドや実験をし、セイロンティーの香りを分解してみていました。色々自分なりに試行錯誤し、こうすればセイロンティーに近い味わいを出せる、という方程式は出来上がりました。それは、セイロンティーの素晴らしさを再認識、というよりもむしろセイロンティーの欠点をあぶり出すような作業になってしまい、あまり夢のあるストーリーは出来上がらなかったのですが、私になりに学ぶことの多い時間でした。
さて、ではそれを和紅茶で再現出来るかというと一応出来ます。ただ、高価格になるし、選択出来る原料は限られていて量も出来ないし、頑張って作っても無理して普通のセイロンティーが出来上がるだけですのであまり魅力は無い。でもその要素を含ませインドやセイロンの紅茶が好きな人達を満足させる和紅茶は作れるかもしれない。普通の喫茶店で普通の人が気軽に淹れた状態でも気軽に楽しめる和紅茶。
それを作らないといけない段階に和紅茶の世界は成長してきました。
もうひとつ、このお気軽ブレンドが必要な理由がありました。私も和紅茶の世界で長くお仕事させて頂いているので、全国の様々な産地から相談が寄せられます。緑茶が厳しくなってきたから紅茶に挑戦したいけどどうしたらいいのか?作ってみたけど美味しいかどうか自分でも判断が出来ない。。。等々。。
そういった人達が作る紅茶は、真面目に取り組んであっても、メッセージ性の少ない、いわゆるどこにでもある和紅茶で、悪くも無いけどではそれを皆が買いたいか、私が欲しいかというとそうでもない、商品価値としては難しいものがほとんどでした。アドバイスを求められても、私の方として言えることは
「これは誰にどう飲んで欲しいものですか?地元の人に飲んで欲しいのか?東京の人に飲んで欲しいのか?ストレートで香りを楽しんで欲しいのか?ミルクティーにしてケーキと一緒に楽しんで欲しいのか?なぜそこで、あなたたちが作る事に意味があるのか?それをお茶に込めることで他に無いそこだけの紅茶が出来るのです」
みたいな偉そうなことしか言えません。言葉としては最もかもしれませんが、そんな事言われても普通は困りますよね。でも、和紅茶を盛り上げていった昔の紅茶生産茶さん達はみんなが強烈なメッセージ性を持っていました。自分のお茶への思いは1時間でも2時間でも話してくれました。なぜ紅茶を作るのか?なぜこの場所でお茶を続けるのか?時には周囲から叩かれながらもその想いを貫いた人達がいたから現在数百トンもの和紅茶が作られるようになりました。
皆さんにもその情熱を持って紅茶を作って欲しい。
という想いはあるのですが、個性というのは作ろうと思って作れる物でもないし、特徴は無くてもよく出来ている紅茶というのもありますし、販路が出来ないと生産者さん達だって紅茶を作る事は出来ません、作る事が出来なければ経験も積むことが出来ず、個性ある和紅茶に行き着くこともない。あまりいい流れではありません。
しかし、この草薙を作る事で、広く皆様に楽しめる紅茶をブレンドするのに必要な「香味のパーツ」を構築することが出来ました。ブレンドに使うことが出来れば、例えば「あなたの土地は暑いところですのでこんな感じの紅茶を」「あなたの産地は柔らかい味が作りやすいはずですのでこんな風な香味の紅茶を」と具体的にお願いすることが出来ます。草薙には土みたいに濃い香りの紅茶から、若い香りのもの、渋い紅茶、丸い紅茶、色んな要素のものを使って構成しています。それぞれの土地で出来上がる香りをブレンドに使えば、生産者さんにも具体的なオーダーが出来る、生産者さんもまずはそれを作りながらノウハウを積み、自分のこだわりが見えてくれば、そこで改めて自分らしいお茶作りに挑戦出来る環境が出来てきます。
草薙というブレンドがあることで、全国のやる気ある生産者さん達と具体的にやりとりが出来るようになるというのが、このブレンド一番の役割と思っています。
多くの人が何気なく楽しめるブレンド。このブレンドで和紅茶の世界は気軽な喫茶シーンだけで無く、ハイクラスの紅茶が登場する一助になるのでは、と思っています。和紅茶の世界がより深く、広く、高く。ブレンドというものが果たす役割は小さい物ではないと信じております。